『団地の恐竜』リリース記念、工藤祐次郎初ロングインタビューUPしました。

『団地の恐竜』リリース記念、工藤祐次郎初ロングインタビューUPしました。

『団地の恐竜』リリース記念、工藤祐次郎初ロングインタビュー

昨年暮れに〈ローズレコーズ〉より最新作『団地の恐竜』をリリースした宮崎生まれのSSW・工藤祐次郎。現在東京は阿佐ヶ谷に暮らす彼は、2012年に本格的に音楽活動をスタートさせ、これまでに3枚のアルバムをリリース。その飄々とした素朴な歌と、音響的なエレクトロニクスが融合した楽曲で徐々にリスナーを獲得してきました。

今回はツアー前に初のロングインタビューを敢行、今作『団地の恐竜』の事や創作にまつわるあれこれ、普段の生活について語って頂きました。

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お金のこと、ちゃんとするようになりました
 

―前作の『葬儀屋の娘』をリリースしてからの3年間はどんな感じでした?生活の事や制作の事、何か大きな変化はありましたか?

生活面に変化ありまくりの3年でしたよ!
って言った後ちゃんと振り返ってみたけど、実はあんまりないのかもしれないです。同じ町に住んでるし同じ仕事してるし、多少の増減こそあれだいたい同じ友人達と飲んでるし。

制作面では前まで使ってたPCがいよいよ駄目になって、個人スタジオとして使ってた事務所も無くなって、場所も録音機材も総取っ替えしたことくらいですかね。
でも同じ人で同じ楽器使ってるので、これも大きな変化はないのかもしれません。
逆に聞いてみたいのすけど『団地の恐竜』お聴きになって、何か変化を聴き取れる部分ってありました?

―単純に歌は上手くなったな、と感じました。あとはアレンジや楽器のアンサンブルの幅が少し広がったかな、と。当たり前と言えば当たり前なんですが。。。

アルバムを聴く分には特別何かが大きく変わったな、とは感じなかったですね。「あ、工藤君お金持ちになったんだな」とか(笑)。

お金もちとな。
そう言われて気付くのは、お金のことをちゃんとするようになりました。
機材や事務所の総取っ替えはお金かかりましたし、レコーディングや諸々の制作にもまあまあな金額が。それは全部〈おぞうにレコーズ〉からお金出してましたね。あっちは多少貯金あったから。

―金銭面の管理は工藤君がやってるんですか?

ええ。工藤祐次郎も〈おぞうにレコーズ〉も僕1人だけなんですが、会計はまったく別にしてるのす。そういえばそれこそ前作からの変化かも。

―具体的にはどんな感じで?

それまではライブの物販売上やギャラとかも普段の生活費に当てたりしてたのすよ。
でも前作のツアー回った時に、各地の人たちがすごく良くしてくれることが多くて、「ライブ良かったです」と言ってCD買ってくれるお客さんとか、「ギャラ少なくてごめんなさいね」とか言いながら封筒渡してくれるお店の人とか、その人たちの顔見てると、このお金で飲みに行ったり、光熱費払ったりしてるのはちょっと、あんまり良くないなあと。
音楽で得たお金は全部音楽に還元しよう、と思うようになって。
それからは普段の生活にかかるお金は普段の仕事で得たお金でまかなうようにして、音楽で入ってきたお金は全部、音楽の為に作った口座に入れるようにしてました。

―なるほど、「食うための音楽」ではなくて「音楽のための音楽」って事ですね。
なかなか面白いセルフマネージメントですね。

うーん…そういうわけでもないような気もしますが。
でもこの3年の間に何かしらの形で僕にお金を払って下さったみなさま、おかげさまで新作出来ましたよ!

―そんな新作をどういった経緯で〈ROSE RECORDS〉からリリースする事になったのでしょう?

前作『葬儀屋の娘』を発表した時に、曽我部さんがツイッター上で「名盤」とツイートして下さって、「うわあ、すごいなあ」ってそれは半分他人事みたいに思ってたのすけど、たまたま去年の春くらいに真黒毛ぼっくすのライブ行ったら、曽我部さんもおられて、直接話す機会があったんです。
で、「今、新作のレコーディングしてまして」って話の中で、「うちから出そうよ!」って言ってくださって。隣にマネージャーの方もいたのすけど、「うん、出そう出そう」って、トントン拍子に話が進みました。

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―あのツイートは自分も印象に残ってます。曽我部さんは普段他のミュージシャンの作品の事は殆ど呟かれないので。。。その後も曽我部さんのラジオか何かのプレイリストに前作(『葬儀屋の娘』)からの曲がリストアップされてましたよね。

ああ、「庭の狐」ですね。あれも嬉しかったすね〜。

―実際お会いして作品がどういう風に良いとかって言われたりしました?

歌詞とかアレンジとか、色々褒めてはくださったのすけど、印象的だったのは「音が良いね」と言われたことすかね。「これどうやって録ったの?マイク何使ってんの??」ってすごく食いつかれました。

―なるほど、「録り音」ですか。確かに、工藤君の作品は音に親密性があるというか、インティメイトな感触があると思います。音としての心地の良さみたいな。それがスピーカーでもイヤフォンでも伝わってくる。
実際そこにはこだわってますか?

そう言ってもらえるのは嬉しいけど、そこに向けてこだわってるという事はたぶんあんまりないです。理論的な知識がないから、ただ何遍も聴き込んで、感覚的に自分が気持ち好い事しかやってないと言うか、それしかやれないと言うか
レコーディングからミックスまでは自分でやってるのすけど、その時点では結構もっと芋くさい感じの音になってるのです。『葬儀屋の娘』も『団地の恐竜』も、マスタリングだけ信頼の置ける友人にお願いしてて、最終的な音の仕上がりは彼の功績に依るところが大きいです。

―実際に新作について曽我部さんからのディレクション等はあったりしました?

曽我部さんのディレクションありましたよ。ラフミックスの時点で送って、聴いてもらって何回かやり取りしてって。でもアレンジとかにあんまり具体的なことは言われなかったですね。「もうちょっとボーカル大きい方がいいんじゃないかな?」とか。
あとは「素晴らしい」とか「情景が浮かぶ」とか、よう褒めてくださいました。

―「情景」という言葉が出てきたので聞いてみたいのですが、工藤君の作品は確かに、「田舎の風景」や「町に住む市井の人々」を見てるような描写が多いですよね。こういうのって東京に住んでいても感じられるものなのでしょうか?

どうなのでしょう?
少なくとも自分が住んでる阿佐ヶ谷は、いわゆる都市ではない感じはします。関東大震災の時に本所の江戸っ子たちが沢山移り住んだ町という歴史があるらしく、義理人情にあふれてるし、近所付き合いもあるし、色恋沙汰の噂なんかもすぐ広まる。
まあ僕は東京ではこの町にしか住んだことがないから、他の町も同じようなもんなのかもしれないすけどね。
いずれにしても「田舎の風景を描こう」とか、「町に住む市井の人々を描こう」とか考えて詞や曲を書くわけではないので、自分では何とも言えないです、すみません

―なるほど。ごくごく自然に出てきた描写なんですね。
では逆に、今回前もって決めて取り組んだ事ってあります?

16トラック!
『葬儀屋の娘』の時に、曲によっては30トラック近くまで使ってたりしてて、やり続けると際限なくなってしまうよなあと思って。でも最初から決めてたわけではなく。
録音機材の総取っ替えの話しをしましたが、それは2017年の夏頃のこと。それまでは前の機材のままでレコーディングしてたのです。が、PCが突然消えたり、フリーズしたまま動かなくなったりするようになってしまって。
ほんでPCを買い換えたら今度は、オーディオインターフェースが古すぎて、新しいPCに対応してなくて、仕方なくそれも買い換えて。
そこでなんか心機一転したくなって、2017年の夏までに録ってた音は一回全部消したのすよ。そのタイミングで、
・最大でも16トラックまで
・2017年中に終わらす
を決めました。
前者は守れたけど、後者は8ヶ月くらいオーバーしてしまいました。

―予期せぬ事故もありあえて音数に制約を設けたわけですね。
曲作りの方はかなりオーバーしたんですね(笑)。仕事が忙しかったとか?

なんででしょうね?
気づいたら2017年終わってました。
宅録の人ってみんなそうだとは思うのですが、録りながら作るのすよ。
「ここでこんな音入れてみたらどうなるかいな?」とか「こないだ入れたこの音やっぱ要らんなあ」とか、
行き当たりばったりで作ってるので、色々試してるうちに随分と遅れてしまいました。 

 

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歌うことは、あんまり好きじゃないです

―工藤君の作品はよく「音響フォーク」などと例えられていますよね。素朴な歌と現代的な音の装飾が合わさってて。
このスタイルはどうやって生まれたのでしょう?キャッチコピー(『高田渡meetsジム・オルーク?』)にも出てくるジム・オルークら、いわゆるシカゴ音響派の影響は実際にあったりしますか?

影響はきっとあるでしょうね。
たぶん僕が人生で一番聴いているアルバムはWilcoの「Yankee Hotel Foxtrot」なのすけど、これは大学時代所属していた軽音サークルの先輩から「これむっちゃ良いよ」と貸してもらったのがきっかけで。でも最初はよく分からなかったのです。いきなり奇妙なノイズから始まるし、変な不協和音にまみれてるし、ビートもはっきりしなかったりするし、1回聴いて「なんだこれ?」と思って聴くのやめて。
でもその後も「あれはなんだったんだろう」と気になって聴き直したりしてて、やっぱよく分からん、でもやっぱ気になる...って繰り返し聴く内に、すっかりハマってしまいました。そこから音楽好きの先輩たちに色々聞いて、ジム・オルークの存在を知って。そこからはジム本人の物やその関連に挙がるバンドの物ばっかり聴いてた時期がありました。

―やっぱり、そこがルーツのひとつなんですね。

でも狙ってどうこうと言うよりは、やってて楽しいとか、気持ち好いとか、そういう音を作っていたら自然とこうなってただけですよ。

―では「歌」の方はどうですか?「牧歌的で素朴な歌」という印象は最初期の作品から通底していますが。

あぁ〜、歌うことは、あんまり好きじゃないです。それは子供の頃から今でもずっと。

―そうなんですか!?

いや、歌うことは嫌いではないけど、それを誰かに聴かれるのが嫌だってことすかね。たぶん。
でもやっぱり声って最強の万能楽器なんですよ。
それに、聴く分には“歌”って、自分で聞いてて楽しいし。
ただ、感情込めて声張ってとか、情感たっぷり自信満々に歌ったりとかはあんまり好きじゃないと言うか。僕はガラじゃないから、なるべく鼻歌みたいに歌おうとしてます。
はっぴいえんどの「暗闇坂むささび変化」のサビとか「ももんが〜」って言ってるだけなのにあんなに愛おしいのですもの。

―確かにガラじゃないかもしれない(笑)。
でも、そんな平熱なボーカルだからこそ歌詞による描写力が活きてくると思うんですけど、工藤君の楽曲には時に悲しくなったり怖くなったりする瞬間があるんですよね。今作では「忘れられたバンド」と「団地の恐竜」の2曲。

前者はタイトルからして既に悲しいんですが、これは何かイメージやモチーフがあったんですか?

忘れられたバンド

 

おお、そう言って頂けるのは光栄です。でもよりによって突っ込まれたくない2曲を
「忘れられたバンド」は、なんだったっけ?色んなモチーフが合わさってるとは思うのですが。
仲の良い老夫婦が近くに住んでて、たまに家におじゃましたり、ごはんをご馳走になったりしてるのすけど、家がコンクリート造りのものすごくお洒落で頑丈そうな家なんですよ。で一度戦争の話をして下さったことがあって、旦那さんは広島の出身で、奥さんは東京大空襲にあった本所のご出身で。「木の家は怖い、全部燃えちゃうんだよ」って。
あとは震災とかその後のデモとか、北朝鮮のミサイル警報とか、近所のミニストップで買い食いしてるアイスとか...。

―うんうん。

熱狂の後に残された虚しさみたいなのになぜか惹かれることが多くて。
僕なりの『After The Gold Rush』(Neil Young) です。気付かれてるかもしれないけど。
なんかこういうの本気で話そうとすると恥ずかしいし難しいすね。

―まあせっかくなんで根掘り葉掘り聞いとこうかなと(笑)。『After The Gold Rush』は気づかなかったですけど(笑)。

After the gold rush 

―では「団地の恐竜」、これはどんなシチュエーションの時に出来たんですか?
歌の後ろでずっと鳴ってるミュージックソウみたいなのは何の楽器ですか?シンセ?

団地の恐竜 

シンセサイザーも薄っすら入れてますが、ミュージックソーみたいなのだったら多分声です。「うー」って裏声で3つくらい重ねてます。

―これ、いい味出してますよね。独特の浮遊感がある。

おっ、やった。
「団地の恐竜」に限らずですが、だいたいどの曲にもモチーフになった人や場所というのはあって、でも100%全部がその人や場所じゃなく。
団地は大阪の友人の家に泊まった時の物とか、営業の仕事してた頃回ってた千葉の方の団地とか。
換気扇の下で煙草吸ってるのは昔住んでたアパート。窓開けたらちょうど向かいの部屋に住む女の子も外で煙草吸っててたりしてて、その娘は「彼氏には内緒なんすよね」とか言ってた。
モチーフはこういう所だと思うのですが、色んな思い出がコラージュされてるから自分じゃ説明がつかないことも多いです。
恐竜はどこから出て来たんだろ

―なるほど。じゃあ明確な一場面じゃなくて、複数のイメージやモチーフが合わさってる事が多いんですね。
僕、ここに出てくる恐竜って、よく団地に併設されてる小さな広場とかにある、子供が乗っかって遊ぶ石製のヤツの事かと思ってたんですが、そういう訳でもない?

あ、そういうわけではないけど、それも良いと思います。
たぶん僕が歌にしたいことって「ねこの背中」の時から変わってなくて、さみしさとか可笑しさとかを何に映したら、より伝わるだろうというところで。
それが最初はねこ(の背中)とかお化けとか台所だったり、次は船とか海とか女の子だったりそれがこの曲では「団地」と「恐竜」に映してみたと言うか。言いたいこと、分かりますかね??

―つまり色んな感情を別のものに置き換えて物語的に表現していると。

ねこの背中 

ええ、ええ。
だから、曲を聴いた人が抱くそれぞれの「団地の恐竜」に映して、そのさみしさを感じて貰えたら、それがどんな物であれ伝わってるのかな、と。
曽我部さんが監督してくれたMVなんかは、曽我部さんにはああいう(影絵)のようなイメージとして伝わってるのかと思うとあれは嬉しかったし、もちろん、山岡さんと同じく子どもが遊ぶ遊具の恐竜というイメージの人もいて、それも嬉しいです。
正解を僕が持ってるわけではないので、各々のイメージで伝わってればそれが正解です。

―やっぱり想像する余地があるのは面白いですよね。しかも人それぞれの。

あ!ひとつ、思い出したこと。
昔阿佐ヶ谷にも、「阿佐ヶ谷住宅」という古い団地があったのすよ。運動場や給水塔や三角屋根の長屋とかもあって、好きな人にはちょっとした名物団地のような団地で。
それが5年くらい前から大規模な工事が入って綺麗に建て替えられて、今じゃどこにでもある今風のお洒落な集合住宅に。
あの時、2年間くらい壊されてゆく景色を眺めてたのすけど、何台もの大きな重機が轟音立てて屋根や壁を破って、首の長いクレーンが物々しく動いてるのを「恐竜みたいだな。」って見てたこと思い出しました。
あの頃のこともちょっと含まれてるかも。好きだった物があっけなく壊されてしまう空しさとかも。

―へえ、面白い。そのエピソードは確かにこの曲の世界観とマッチしますね。
そしてMVの影絵のアイデアは曽我部さんなんですね。折角なんで撮影にまつわるエピソードが何かあれば教えてください。

あの撮影、曽我部さんが18時頃に来られて、24時くらいまで掛かって撮ったのす。
で、映像に使われてたシーンは最初の2,3時間で撮り終わってて、あとは僕1人のシーンで。1人でごはん食べたりコンビニ行ってビール飲んだり、ギター弾いてリップシンクしたりなどなど…1人のシーンの方が撮影多かったのすよ。
曽我部監督曰く、恋人がいる暮らしと、1人の暮らしのパラレルワールドの世界、というストーリーがあったみたいで。
でも完成した映像観たら僕1人のシーンはほぼ全カットでした。

―(笑)。

よっぽどひどかったんだろなあ。。あのMVですらなんかずっとカクカクしてますもんね。

 

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技術を前面に出そうとすると音楽は沈んでいく

―まあ、カットされた理由は分からないですけど、緊張してるのは伝わりましたね(笑)。
でも今の話ではっきり分かったのは工藤君の歌はやっぱり日常を描いているだけなんですよね。しかも小学生にでも分かる言葉で。それ以上の大きい事は歌ってない。と同時に全部を語ってないから、聴き手に抽象的でもなにかしらを想起させる余白があるのが面白いなと。

ああ、たしかに、難しい言葉は使わないように心がけてます。
楽器の腕前とか言葉選びとか、技術を前面に出そうとすると途端に音楽が沈んでいくような感じがして。
技術はあくまでも一番下で土台を支えているもので、見えやすい(聞き取りやすい)部分は簡単な物同士の組み合わせだけで面白いと思ってもらえるように作ると言うか

―なるほど。

でも、日常と平行して在る、ちょっとずれた所を掬いたいです。
川上弘美の『神様』の1行目が「熊に誘われて散歩に出る」みたいな。

―確かに、素朴な日常の中にある「歪み」みたいなのって工藤君の作品中に時々現れますよね。そこでいつもハッとするんですけど。さっき言った「悲しくなったり怖くなったりする瞬間」もそれ由来だと思います。川上弘美さんの名前が出たついでに、折角なんで他に好きな文学作品を教えて貰えますか?

好きな文学作品ですか
坂口安吾なんかがパッと出てくるのすけど、それはあの歳の頃に読んでしまったからかなあなどと思ったり。
うーん。じゃあ、色々ありますが今作の制作中に読んでた物に絞って挙げると、『尾崎放哉句集』と『勇猛果敢なアイダのものがたり』は何度も読み返してました。あ、文学作品じゃないや。

―『勇猛果敢なアイダのものがたり』、どうでした?僕も気になっているのですが。

むっっっちゃ良いですよ。大学生の頃からもう何度となく読み返してるし、読む度に背すじ正されます。
「私たちを駆り立てるのはサムシング・グッドサムシング・ニューじゃないの」 って!

―「サムシング・グッド」ですか―。
ちょっと変化球的な質問になるのですが、工藤君の考える「インディーズ」ってなんだと思いますか?
もはやこの言葉自体が形骸化してしまってる気もしますが。

また答えに困る質問ですね...。
それこそ『勇猛果敢なアイダのものがたり』から引用すると
そんなの簡単なこと。自分のことは自分でやらなきゃってことよ。マネージャーもなし、広報担当者もなし、ブッキング・エージェントもなしでね。若いバンドは、こういういろんな作業を自分でやるべきだと思う。曲を作ることから、録音し、レコードを作り、プロモ盤を配り、ギグの企画をし、ツアーをブッキングし、ヴァン(もしくは普通の車)を運転して、他人の家の床で寝たり、それに、エキサイティングな最近のインターネット仕事まで、全部自分たちの手でやるの。こうしたすべてが土壌となってはじめて、パンク・ロックの甘い果実が育つのよ。だからこそ、私たちのプラムは他よりジューシーなの!
厳密にはこれは、インディーズではなく“DIY”について尋ねられた時の答えでしたが。「自分のことは自分でやる」ってことでしょうかね。
と言っても僕はこれしかやれないからこうしてるだけなのですが。

―確かに、「自立」っていうのは絶対的なポイントですよね。

でも完全な自立というのは不可能ですよ。音源の制作も、販売も、ツアーやライブのブッキングも、ぜんぶ周りの優しい人たちに助けられてばかり。

―そういえば今作も地元のコミュニティを感じさせるゲストミュージシャンの方が参加してますよね。それぞれどういった経緯で参加してもらう事になったのでしょう?
レゲエ~ダブ界隈の方達のクレジットには驚きましたよ。

簡単に言うと、飲み仲間です。
JAMA-ICHIの3人とパインズマインズの2人は同じ阿佐ヶ谷で飲み屋やってたり、飲み歩いてたりするのでそれで出会いました。
多分クレジットに驚かれたのはDUBFORCEの(龍山)一平さんとTHE DUB STATION BANDのアキヒロ(秋廣シンイチロウ)さんかと思われますが、その2人はJAMA-ICHIと昔からの仲間らしく、色んな形で一緒に音楽やってたみたいです。
で、2017年あたりから度々僕も一緒に演る機会があって、「あ、これ録音したい」と思って誘いました。

―そんなメンバーが参加したラストの「気配」は完全に新境地、というか意表を付かれました。やっぱりグルーヴが凄い。

意表突きましたよね。最後の最後に裏切って終わりたかったんです。
アルバム本編はその前の「後夜祭」で終わりなのすけど、ここでエンドロール流すイメージ。

―これはセッションしながら作ったとかですか?

これはスタジオでみんなでうなりながら作りました。
「ああじゃない、こうじゃない、じゃあこれはどうだ、いや違う、どうするよ…」
って言ってるうちにタイムリミットが迫ってきて、追い詰められた時に、誰かが「ミリタントビートどうだろう?」って。で演ってみたら1発でハマって。
僕には新鮮だったのすけど、メンバーの皆さんは「やっぱおれたちこれ(レゲエ)が身体に染み付いちゃってんだねぇ〜」と笑ってました。

―そうなんですね。てっきり最初からある程度裏打ちをイメージしてるのかと思ってました。歌ともハマってるし。

いや、歌は後からはめたのす。
スタジオに持ち込んだ時点では歌詞も歌メロもほぼなくて、ただ2コードの繰り返しのフレーズだけ作ってて、「この繰り返しだけの曲を演りたい」と伝えて。イメージとしてはTalking Headsの「This Must Be The Place(Naive Melody)」みたいな感じのを考えてたのすけど。
でも試行錯誤の結果、ああいうことに。
で持ち帰って、さあ、思ってたのと全然違うの録れちゃったけどどうするよと。

This must be the place(Naive melody)

ここでまた1人であれこれ試すけど全然うまくいかないのすよ。
どうやったって格好良くしかならないし、これは自分のアルバムに入る曲としてどうなのだろう?って悩んで。
その後数日間はボツにするつもりでした。で、そんな悩んでる所にパーカッションのアキトさんが、「ちょっと録り足したいアイデアがあるんだけど、試すだけ試させて欲しい」と。
それ聞いたら、やっぱどうにか形にしなきゃなあと思いまして。
どこでどんなフレーズが鳴ってるのか、メンバーの音ちゃんと聴いて、歌メロや言葉のハマり方を考えてなんとか仕上がりました。

―わりと難産だったんですね。同じメンバーが参加してる「ウーロンハイ」もセッションで出来た曲ですか?

「ウーロンハイ」は、一昨年初めて一緒にライブ出た時から演ってたのすよ。こっちはセッションで割とあっさり出来ました。
2番のあのブレイクは、今回の録音中に、ドラムの梅さん(梅津旭:JAMA-ICHI)から出てきたアイデアでその場で採用されたものです。僕はあのブレイク、たまらなく好きなんですよ。
自称「2018年のベストブレイク」。

―あのブレイクは工藤君らしいな、と思いました(笑)。
「初盆」は北九州のSSW、 溝野ボウフラさんの楽曲ですよね?以前はライブでも溝野さんの「特別いじましい気持ち」をカバーしてましたけど、これをアルバムに入れようと思ったのは何故ですか?

そうですそうです、よくご存知で。
ボウフラさんとは『葬儀屋の娘』のツアーの時に初めて会って、最初から僕の一目惚れでした。
で、その次のツアーの時に本人の目の前で「初盆」演ったらすごく喜んで下さって、「この曲工藤くんにあげるよ!」って。今回も事前に収録許可を求めるメール送ったら快諾して下さったので、収録に至りました。
ボウフラさんの曲だけでカバーアルバム作れるくらい演れるし、好きなんですよ。流石にそれはやらないけども。

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―またどこかのタイミングで聴いてみたいですね。今回、パッケージにもかなりのこだわりが感じられましたけど、この文庫本風のデザインは工藤さんのアイデアですか?ブックレットも通常とは逆の右綴じですし。

パッケージのデザインなどはちょいちょい口を挟みながらも、ほとんどデザイナーの(清水)夏さんに任せっきりでした。むっちゃ良いですよね。文庫本風のデザインも夏さんが。「曲が、小説読んだ後みたいな感じがするから」とのこと。

―それは同感です。とりわけ今作は、作品としての流れが良かったと思います。「アルバム」というフォーマットが良く活きていますよね。

ありがとうございます。この、1曲ずつダウンロード/ストリーミングの時代にそれを感じて貰えるのはとても嬉しいです。

―では、ジャケやブックレットのイラストを描かれた平岡瞳さんについて簡単に紹介して貰えますか?

イラストの平岡瞳さんは、たしか2017年、吉祥寺で個展観に行ったのが最初でした。それも僕の一目惚れ。青の濃淡がとても綺麗で、僕が音楽で表現したかったことが表現されてて。
静けさとユーモア、何にも無くてただそこに在るだけの綺麗な景色。
僕が売れたすぎて頭おかしくなってくると、音楽が下品な方向に進んでしまったりするのですが、平岡さんの絵を見ると、姿勢を正して貰える気がします。

―(方向修正して貰える)そういうのって、意外と音楽じゃなかったりしますよね。

ええ。僕の場合音楽じゃない物の方こそ多いです。
映画とか漫画とか、本や料理や景色や友人たちとの何気ない会話などなど。

 

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毎日ねこと遊んで暮らす

―音楽に還元できるものって決して音楽だけじゃないんですもんね。
ところで先ほど「売れたい」っていう発言がありましたけど、工藤君ってそういう風になかなか映りにくいと思うんですよね…。周りから言われたりしません(笑)?

言われます言われます!意外がられたり、ネタみたいにとらえられたり。
それってなんででしょう?

―やっぱり飄々とし過ぎてるんじゃないですか(笑)?多分染みついちゃってるんだと思います。でも音楽=その人ですからね。それが工藤君の魅力だったりもするし、それが無くなると生まれる音楽も少し違ってくるのかも。

飄々としてるつもりは無いのだけどなあ。。
お金もちになる。毎日縁側でねこと遊んで暮らす。

―是非なって欲しいですね、お金持ち。そしてその為の第一歩、レコ発ツアーが始まりますね。
今回全公演投げ銭にしたのは何故ですか?

今までにも何度かツアーをしてきたのですが、会場によってチャージが違うのが、なんか、どうなんだろう?とは思ってたのすよ。こっちは無料、あっちは2500円とかって。
で、去年の夏頃、折坂悠太さんが「投げ銭ツアー」って企画打ってるの見て、「そっか、そういうことでいいよなあ」と。
お客さんにとって気軽に行ける方が良いし、CD売れてほしいし、あと、投げ銭ツアーしようかな?て相談した友人に「あはは、似合うやん!」て言われて。
似合うことをやる、がモットーなもので。

―全公演投げ銭、間口はグンと広がると思いますが、かなりのチャレンジですよね。
ツアー前に何か言っときたい事ありますか?

間口広がるといいなあ。
言っときたいこと、
「来てねー」くらいすかね。気楽な感じで。

 

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「工藤祐次郎レコ発!全公演投げ銭ツアー2019」

-西日本編-

1月25日(金)熊本barきばらし
1月26日(土)小倉engel
1月27日(日)岡山salonアルハル
1月28日(月)高松TOONICE
1月30日(水)松山OWL
1月31日(木)道後ワニとサイ
2月1日(金)山口印度洋
2月2日(土)広島ふらんす座
2月3日(日)福岡cafe&bar gigi
2月8日(金)神戸space eauuu
2月9日(土)大阪音凪
2月10日(日)奈良apa apa cafe
2月11日(月、祝)京都喫茶ゆすらご
2月16日(土)浜松たけし文化センター
2月17日(日)名古屋きてみてや
2月18日(月)松本give me little more
2月23日(土)長野ランタンリルン

And more…

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各公演の詳細はツイッター、ホームページなどをチェック!
追加の公演も随時更新していきます。

工藤祐次郎ホームページ→ http://ozounirecordsworld.tumblr.com

ツイッター→ @ozounirecords

取材・文/山岡弘明(STEREO RECORDS)

 

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工藤祐次郎『団地の恐竜』
2018年11月28日発売 ¥2,000+税 ROSE 233
試聴、ROSE RECORDSオンラインショップページへはこちら

 

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