上間常弘 Tsunehiro Uema

最初は友人から「ソカベさん、渋谷にアシッド・フォーク聴きに行きましょうよ」と言われたのだった。それである夜訪れた渋谷の片隅の小さなライブbar。そこでうたってたのは、痩せた体の若者だった。ばっさりと伸びた前髪の奥に、目玉がギロリと光っていた。彼は、白いブランコに揺られている小さな女の子のこととか、夜中にしのび寄ってくる恐怖についてとか、眠れない夜に見た素敵なものについて、うたっていた。あと、犬や月のことも。
曲が終わると、それまででっかい声でうたってたくせに、蚊の鳴くような声で「・・・どうもありがとうございます・・・」などとぼそぼそと喋る。沖縄からやって来たこの若者は、普段は仕事をしながら、夜になると詩を書き、歌をうたっている。
都会における普通の青年の普通の生活。そこにある幻想と狂気が、ゆっくりと滲み出してくる。

text by keiichi sokabe
photo by kenny otsuka

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